先日、観てきました。上映中の映画なので、ネタバレはしませんが、藤野知明監督が、統合失調症を発症した姉と、一緒に暮らす両親との対話を、20年に渡って記録した、家族のドキュメンタリー映画です。
監督は、この映画は、姉の発症の原因を究明しようとしたものではなく、また、統合失調症という病気を説明しようとしたものではないと述べています。
精神病発症から治療導入までの期間を、精神病未治療期間(Duration of Untreated Psychosis:DUP)といいます。DUPが早いほど、予後が良いという研究結果が多く示されていますが、実際には発症から治療まで、平均でも1年以上かかっていると言われています。何十年も未治療の場合も、けして珍しくはありません。
なぜ時間がかかってしまうのか、一つは、統合失調症の病気自体が、当事者が「自分は病気ではない、今おきていることは事実だ」と感じる病気であること、また、精神病に対するスティグマ(差別や偏見)が未だ根強くあり、当事者も家族も「病気だと認めたくない、認められたら困る」と思ってしまうことがあげられます。
病気になって、どうなっていくのか分からないと、とても怖いと思います。病気が安定して、平穏で幸せな生活をしている当事者と出会うことが、本来は一番希望が持てることだと思います。ピアサポートやピアカウンセリングがもっと広まっていくことを願います。
また、家族が治療につなげたくても、どうしていいか分からないこともあるでしょう。どの地域にも、保健所や保健センターがあり、相談を受けています。また、精神科がある病院の医療連携室でも相談を受けているところが多いと思います。しかし、相談しても、まず本人を病院に連れてきてもらって・・と言われて、それが出来なくて困っている、となる家族もいるでしょう。
精神科には、病状が重く深刻な状況にあるときに、他の科にはない、本人の意思によらない強制入院もあります。確かに、それで治療が始まって、なかには病状がとても良くなって退院される患者さんもいます。しかしながら、強制的な入院や治療の苦痛は、当事者にとって非常に大きく、なるべくは避けたいところです。
フィンランドの西ラップランドの病院で開発された「オープンダイアローグ」という「開かれた対話」によるケア手法では、誰かが発症して困っている家に、精神科の色々な職種のチームが訪れ、当事者、家族、関係者などと、車座になり連日とことん話をします。そのことで、病状が改善し入院を回避できたという研究結果に、いったい何がおきているんだろうと、多くの精神医療の関係者が驚きました。もし、精神病だと診断されて、何を言っても、病気の人の話とレッテルを貼られて聞いてもらえないとすれば、そんな恐ろしいことはありません。良くなるために、「腹を割って」対話をすること、当事者自身がどうしたいのかを決めることが大切なのだと思います。
こういった表現をしてよいのかどうか分かりませんが、おそらく、大抵の精神科医は、統合失調症の患者さんのことを好きなのではないかと思います。もちろん、病状が悪い時は、本人も周りもとても大変で、生半可なことではありません。だからこそ、嵐のように大変な人生を送った患者さんの、驚くような無償の優しさに、生きるというのはどういうことかを何度も突きつけられ、教えてもらうのです。
ポレポレ東中野は、とても素敵な映画館でした。平日でも満席でした。映画「どうすればよかったか?」、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。